僕が座右の書としている一冊に『戦略の格言(コリン・グレイ著、奥山真司訳、芙蓉書房出版)』がある。
そこで書かれている重要箇所を一つピックアップしよう。
「有能な戦略家は、時間という厳しい相手を敵にするよりは、むしろそれを味方につけるような戦略を開発すべきなのだ。」
『戦略の格言(コリン・グレイ著、奥山真司訳、芙蓉書房出版)』
これは弱小個人投資家が肝に銘じる大事な提言である。
時を味方につけるとはどういことか?
例えば、配当をもらうことを中心にした投資だったり、優良企業が着実に積み上げる内部留保をあてにした投資をすることなど。
これは、時が経つにつれて、着実に積みあがっていく。複利効果も働く。
持っているだけでお金が積みあがっていくのは安心感や心地よさにつながるだろう。
この余裕が冷静さを生み、質の高い意思決定を生むことにもつながっていく。
では、時を敵に回すとはどういうことか?
例えば、信用取引の空売りなど。これは、時が経つにつれて、金利支払いなどが重荷になってくる。しかも、約4~5%ぐらいの高い利息がかかってくる。配当の逆支払いもしなければならない。半年という期限もある(※制度信用は別)。
FX取引のドル円売り建てのマイナススワップなども同様だ。
これらは時が経つにつれてお金がポケットから出ていく。正直、恐怖だ。日に日にお金が減っていく。
その恐怖感によって、平静を保てなくなり、意思決定の質は悪くなっていく可能性が高い。
また、時を味方につけるというのは、「締め切り」や「タイムリミット」についても考えられる。
例えば、個人投資家が株を買う分には、特に締め切りがない。「いついつまでに売らなきゃいけない」といったタイムリミットがない。いつ買ってもいいし、いつ手放してもいい。
そんなの当り前じゃないか!
と思うかもしれないが、機関投資家やヘッジファンドのマネージャーなどは違う。彼らには締め切りがある。
例えば、「今年○○%のリターンを得なければクビ!」とか「いついつまでに損失を減らさなければならない」など。これによって、無理にリスクを取って買いに回ったり、あるいは、もう少し保有していれば上がるかもしれない優良企業の株を手放さなければならなかったりする。
この制約の差は大きい。
よく、個人投資家は機関投資家や大きなファンドには勝てないと思うかもしれないが、実は「時を味方にできる」点からすれば有利である。いつ買ってもいい、いつ手放してもいいというのは、想像以上の強みなのだ。
僕自身、時を敵に回して損をしたことが何度かある。
一つは「空売り」。空売りと言っても「インバース系」のETFだが、性質は同じものだ。
一時、日経平均が下がると、逆に上がるETFを持っていたことがある。日経平均が暴落しそうだったので、一時的に保有したのである。
ところが、日経平均が下がったには下がったのだが、僕の想定ラインまで達しなかったため、引き続き保有し続けたのである。
すると、日経平均は横ばいであるにも関わらず、あれよあれよという間に時が経つにつ入れて、そのインバース系ETFの価格は下がっていったのである。
何度も言うが日経平均は横ばいだったにも関わらずである。
そりゃそうだ。「空売り」には当然手数料がかかるからだ。株を借りる手数料だったり、金利だった理、配当分の支払いだったり。
それが時が経つにつれて着実に「マイナス」として積みあがっていくので、日経平均が横ばいだとしても、どんどん目減りしていくわけである。未熟者であることを実感した瞬間であった(当然損切りした)。
これが時を敵に回すという愚策の一例である。
今はそのような愚かなことは一切していない。配当が積みあがったり、優良企業の利益剰余金が積み上がることを前提にした=時を味方にした投資しかしていない。あの恐怖は二度と味わいたくないものだ。